出血のない椎骨動脈解離が存在する!?

本日は椎骨動脈解離の謎に迫ります。

椎骨動脈解離とは?

椎骨動脈解離とは首を通る血管の膜が裂けたり、剥がれてしまう病気です。

血管が裂けることにより偽腔と呼ばれる、本来の血液の通り道とは違った道ができます。

偽腔は重大脳疾患を起こす原因となります。


椎骨動脈解離でリスクが高まる重大脳疾患

  1. 脳梗塞=血管の詰まり
  2. くも膜下出血=血管の破裂
  3. 動脈瘤=血管のこぶ



椎骨動脈は逆Yの字状に首の左右に一本ずつあります。椎骨動脈解離の場合、解離を起こした側だけが痛むケースが多いです。よく見られる初期症状はうなじや後頭部の強い痛みです。一週間、あるいはそれ以上の期間強い頭痛が続きます。

出血のない椎骨動脈解離とは?

当院の指す「出血のない椎骨動脈解離」とは、出血を確認できないが、椎骨動脈に解離の所見がある症例を指します。厳密には僅かな出血が起きている可能性はありますが、少なくとも『検査で出血が確認できない』状態です。

尚、ここでは、出血の有無は重要ではありません。解離がある場合にきちんと見つけてあげる事が争点です。


椎骨動脈解離の検査にはMRIが用いられます。その際の検査内容は通常のルーティーンではなく、解離のための撮り方を実施します。

解離を見つける為に必要な検査要件

  1. 医師が椎骨動脈解離の疑いがあると判断する

  2. MRA撮影と呼ばれる血管撮影を実施する

  3. MRAは脳だけでなく首も撮る必要がある


実際には血管MRAだけでは判断が難しい場合もあります。ですので、当院ではBB法と呼ばれる出血性の病変を映し出す技法を追加しています。

BB法チェックの実例


椎骨動脈を断面状に細かく映し、出血している部分がないかをチェックします。赤丸部分が白くなっていますが、これは出血がある事を示しています。つまり、椎骨動脈解離である事の裏付けになります。

出血がないなら何の病気なのか?

通常はBB法まで行えば見落としのリスクは大幅に低減できます。ですが、血管MRA上で異常が確認できるが、BB法では出血が確認できないケースがあります。このケースが何の病気かは医学的に定まっていいません。医師に意見を聞いて回れば、この5択となるでしょう。

この場合、当院では1として考えます。理由は最悪の想定をすると椎骨動脈解離として治療に当たる事が一番良いと考えるからです。つまり、脳梗塞に繋がるリスクを考えて治療方針を決めます。

これが異常に膨らんでいる場合はくも膜下出血に繋がるリスクがありますが、当院の診療経験上、これに該当する患者様はまだ1例も見つかっていません。なぜなら、くも膜下出血タイプの大半は早期に破裂し救急車コースとなるからです。

尚、未破裂脳動脈瘤であるかは、時間経過と共に改善が見られれば否定できます。また、急激に膨れていかないか、動脈瘤のような形をしているかでも判断が付けられます。

 

通常はBB法まで行えば見落としのリスクは大幅に低減できます。ですが、血管MRA上で異常が確認できるが、BB法では出血が確認できないケースがあります。このケースが何の病気かは医学的に定まっていいません。医師に意見を聞いて回れば、この5択となるでしょう。

1.椎骨動脈解離
2.可逆性脳血管収縮症候群 RCVS
3.未破裂脳動脈瘤
4.病名を付けられない=わからない
5.タイムラグ→発症直後は光らない

この場合、当院では1として考えます。理由は最悪の想定をすると、解離として治療する事が一番良いと考えるからです。つまり、脳梗塞に繋がるリスクを考えて治療方針を決めます。

該当箇所が異常に膨らんでいる場合は「くも膜下出血」に繋がるリスクがありますが、当院の診療経験上、これに該当する患者様はまだ1例も見つかっていません。なぜなら、くも膜下出血タイプの大半は早期に破裂し救急車コースとなるからです。

尚、未破裂脳動脈瘤であるかは、時間経過と共に改善が見られれば否定できます。また、急激に膨れていかないか、動脈瘤のような形をしているかでも判断が付けられます。

出血のない解離 実際の症例

初回ご来院時

赤丸内に細くなっている箇所があります


1か月後

細くなっていた部分が修復されつつあります

1か月後

BB法撮影 出血があれば赤丸内が白く光りますが黒いままです
補足)外周が白いのは出血ではなく動脈硬化性変化です。この画像単体での判断ではなく、輪切りにした画像と比較して判断します。

白く光る場合はこのようになります(別の方の画像です)


BB法は光るまでにタイムラグがあり、初回の撮影で光らずとも二回目以降で光るケースがあります。ただ、この方の場合は1カ月後の撮影でも出血は確認できません。

これは時折遭遇するケースです。軽度の解離は出血が確認できない場合があるという仮説が成立しそうです。

精度の高い診療を行うには

血管MRAだけでなく、BPAS法を用いて二重の確認を行うと良いです。MRAは血の流れを映し出します。対してBPASは血管の形を映し出します。

B-PAS画像

急激に狭くなり途切れかけている事が確認できます

このようにBPASは平面画像を出せますが、3D化して左右からも角度を変えて見る事で更に確度を上げることもできます

「出血がないから解離ではない」と言う先生がいますが、ここまでやってから違うと判断する方が無難かと思います。何故なら、万が一解離だった場合に脳梗塞のリスクがあるからです。

ただ、ここまで念入りにやる病院は限られています。当院がここまでやるのは解離疑いの患者様が沢山来られているからです。後頭部痛で不安要因を取り除きたいという思いで来られるので、それに応えたいという気持ちで診療に当たっています。

当院では実際に直近1年で20名以上の解離を見つけています。これは通常の脳神経クリニックでは考えられない程多いです。その中には、今回取り上げたようにまだ未解明な症例にも当たります。これを紐解いていく事が、未来の医療への布石になると信じています。

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記事監修

院長 泉山 仁

・横濱もえぎ野クリニック 脳神経外科・脳神経内科 院長
・日本脳神経外科学会専門医
・日本脳卒中学会専門医

平成27年 市が尾カリヨン病院 病院長
平成29年 青葉さわい病院 副院長
令和元年 横濱もえぎ野クリニック 脳神経外科・脳神経内科 開業

 
 
横濱もえぎ野クリニック 脳神経外科・脳神経内科

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