実は椎骨動脈解離の治療方法は確立されていません。
※この結論のみでは誤解を生むのできちんと読み進めてください
服薬や手術の治療は?
椎骨動脈解離は脳梗塞やくも膜下出血に繋がりやすい病気です。脳梗塞、くも膜下出血に至った場合は、手術による治療が行われます。しかし、椎骨動脈解離が起こっただけで手術になる例は少ないです。
服薬(薬を飲む)による治療は、脳梗塞リスクのあるタイプの解離であれば、抗血小板薬や抗凝固薬による治療法が存在します。これは脳梗塞を予防するための処方です。ですが、この投薬治療が100%正しいというエビデンス(証拠、裏付け)はありません。よって、服薬治療を行う医師と、行わない医師に別れます。つまり、エビデンスを前提として動く場合、椎骨動脈解離の治療はできないという事になります。
クリニックで見つかる解離
クリニックで見つかる椎骨動脈解離は、殆どが脳梗塞タイプです。くも膜下タイプは発症までの時間的余裕がないです。クリニックへ行く前に、くも膜下出血が起こり救急車コースです。
当院では椎骨動脈解離疑いの患者様を年間200人以上診ています。クリニックでは日本一の可能性がある規模感です。そして、直近1年で20人以上の椎骨動脈解離を発見しました。その20人の中にくも膜下タイプは1人もいませんでした。
そうなると、クリニックでの医療は「脳梗塞リスクのある解離に投薬を行うか?」が争点となります。私の現在の見解は「投薬した方が良い。」と考えます。これは長い医師経験の中で、投薬無しで脳梗塞を発症する事例を何度も見てきたからです。対して、当院が投薬を行った椎骨動脈解離の患者様から、脳梗塞発症の報告は1件もいただいておりません。
治療はどこがゴールか?
こちらも確立されていません。2週間でほぼ安全、2カ月で安定(=ゴール?)と書かれている記事を拝見しますが、これは短すぎると感じます。
ハッキリ言うと2週間で「もう大丈夫。」と言える患者様は皆無です。むしろ、一か月後に悪化しているパターンもあります。最低でも半年から一年は見ないと非常に不安です。これを2カ月で大丈夫と言い切れる医師がいるなら、どういった根拠で大丈夫と言うのか伺いたいです。
椎骨動脈解離は椎骨動脈が狭くなったり、膨れたりします。これがMRA画像上で改善、つまり元の健康な血流に戻ることで治癒とみなすことが良いでしょう。
綺麗に戻った事例
ですが、血流が修復しきらないまま落ち着いてしまう方も存在します。
このような方に「どこが治療のゴールですか?」と聞かれると、脳神経外科医ですら「わからない。」と思う医師が多いでしょう。そもそも、どこをゴールとするかが定まっていないのです。
画像上改善が認められ始めるのは早くても1カ月前後です。それより早い方は椎骨動脈解離が起こってから時間が経ってから受診されています。既に受診した段階で治りかけのフェイズです。大抵はそこから時間を掛けてゆっくり形が修復されていきます。2週間程度ではまだ頭痛が酷い患者様も沢山おられます。とても安全とは言えません。
未解明要素が多い理由
椎骨動脈解離に未解明要素が多い理由
- 椎骨動脈解離の研究は、くも膜下出血タイプに集中している
→臨床研究しやすい大病院に集まる患者様は、くも膜下出血発症後の方が中心だから
- 稀な病気だと認識されており、見落とし・見逃しが多発しているから
→公表上では10万人に1~3人の発症率のため、病気の第一候補から外される事が多い
- 2の理由から、実際の症例数が少ないから
→ただでさえ限られた実例を見逃すため、年に2、3例しか診ないクリニックの医師も多い
まとめ
椎骨動脈解離は明確な治療法が定義されておらず、どこを治療完了とするかも定まっていません。
患者様の中には一生抗血小板薬を飲み続けると決めた方もいます。それを明確に否定する理由がない場合は、飲み続けるという選択肢もあり得ます。何が正しいかは医師も手探りな部分があります。
当院には解離疑いの患者様が沢山来られます。大学病院に在籍していた時代にも、これだけの症例を診る機会はありませんでした。この環境を活かして、ゆくゆくは私なりの結論を出せたらと考えています。それが、将来的に椎骨動脈解離治療の指針に繋がれば、、。1人でも多くの患者様が脳梗塞を発症せず、元気になってくれる事を切に願うばかりです。
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椎骨動脈解離とは?
記事監修
院長 泉山 仁
・横濱もえぎ野クリニック 脳神経外科・脳神経内科 院長
・日本脳神経外科学会専門医
・日本脳卒中学会専門医
平成27年 市が尾カリヨン病院 病院長
平成29年 青葉さわい病院 副院長
令和元年 横濱もえぎ野クリニック 脳神経外科・脳神経内科 開業
横濱もえぎ野クリニック 脳神経外科・脳神経内科
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